洋画感想連想記

息をするように洋画を鑑賞して10数年です。海外ドラマも好きです。

お涙頂戴なんかじゃない 映画『バーバラと心の巨人』

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原題は『I Kill Giants』。

Netflixのサムネイルはこの原題が大きく書かれたポスターになっていて、あらすじに目を通してすぐに再生したので、邦題を知らないまま鑑賞しました。正直言って、知らずに鑑賞できてよかったです。

 

主人公バーバラの気持ちが痛いほどわかりました。

個人的な話で恐縮ですが、私も昔、彼女と似たような経験をしているので、映画の終盤で気づいたころにはもう共感しきりでした。

とにかく素直に感動して、自分の人生を振り返ったりもして、数日たってしまいました。ここに思ったことを書いておきたいと思います。

 

あらすじ

簡単に書きたいと思います。こんなところです。

周囲から変人扱いされている(おそらく)ローティーンの主人公バーバラ。うさぎ耳のカチューシャを身に着けた風変わりな彼女は、何も知らない町の住人を巨人たちの脅威から守っていた。すべてを奪っていく巨人を倒せるのは自分だけだと信じるバーバラの毎日は、その巨人たちの相手で忙しい。本人は至って真剣だが、周囲からは奇行として受け取られている。そしてそれをよくわかっているバーバラは、自分を気にかけてくれる姉やスクールカウンセラーを含め、誰に対しても徹底的に反抗しているが、イギリスからの転校生ソフィアには徐々に心を開き、親交を深めていく。そんな中、巨人の親玉タイタンとの決戦の日が近づく。

 バーバラの家庭環境

映画の冒頭で、海の見える家で姉と兄(弟)と一緒に暮らす様子が描かれます。どうやら姉が仕事をして、弟と妹の衣食住を支えているようだとわかります。妹は自分の世界で生き、弟はゲームばかりしているという状況で、姉はいっぱいいっぱいです。

 学校での人間関係

学校でのバーバラは孤立しており、いじめっ子グループに目をつけられています。ところが、巨人退治に忙しいバーバラは周囲に関心がなく、いじめっ子に対しても強気です。

そんなバーバラですが、ある日イギリスから転校してきたソフィアと少しずつ仲良くなります。ソフィアはバーバラから巨人の話を聞き、疑いながらも、最後までバーバラの味方でいようとするやさしい子です。

また、新しく赴任した心理カウンセラーのモル先生にも気にかけられるようになります。モル先生が手を差し伸べようとしても、バーバラはなかなか心を開かずに拒否します。途中、カウンセリング中に頭を抱え、衝動的にモル先生を殴ってしまうなど、物語が進むにつれて「問題児」っぷりに拍車がかかってしまいます。

   

これ以降の内容には、以下の映画に関するネタバレを含みます。

 

 

 

巨人の正体

この作品に登場する巨人とは、バーバラにだけ見えている怪物のことです。他の人たちには、強い風が吹いたり、波が荒れたりするようにしか見えないようです。

巨人は複数存在しています。映画の中盤までは、いわば"下っ端"の巨人たちをおびき寄せて退治するため、バーバラは日々森の中や海辺を偵察したり、特製のエサやワナを仕掛けたりしています。彼女がこんなことをしているのには理由があります。 

 

実はバーバラの母は重い病気にかかっていて、自宅の2階の一室で療養していました。

バーバラは、「巨人がやってきたら母が奪われてしまうから、自分が倒さなければならない」と信じているのです。

この事実は映画の終盤、つまり巨人のラスボス・タイタンとの決戦のときまではっきりしません。家に両親がいる気配がないことや、バーバラが2階の部屋を恐れていること、モル先生に対するバーバラのセリフなどから、じわじわと事実がわかってくるような作りになっていました。

 

バーバラはずっとひとりで闘っている

この映画に関する感想記事なんかをいくつか読みましたが、たいていの場合「ソフィアやモル先生と関わったことでバーバラが成長した」みたいな解釈がなされていました。

 

でも、私はそう思えません。

たしかに周囲に心配や迷惑をかけまくりますが、バーバラは最初から最後まで、自分ひとりで問題に立ち向かっています。

孤独だったときも、ソフィアを受け入れたあとでも、彼女は自分にしか見えない巨人を相手にひとりで闘っていました。巨人を倒すのは自分の役目であり、誰の助けも要らなかったからです。だから、モル先生が一生懸命に会話をしよう(悩みを聞いてあげよう)と試みても、母の病気のことを受け入れる準備の整っていないバーバラにとっては余計な干渉でしかなく、ある種のパニック状態になり、思わず先生を殴ってしまったのだと思います。

 

バーバラは、基本的にはひとりで行動しています。森の奥や海辺で、誰にも気づかれず、ただただ巨人を倒そうと必死になっているだけです。 

それに、周囲からしたら自分が変人に見えるということも、ちゃんとわかっています。

自分が使命としてやっていることは誰にも理解できないし、できなくていい。「関わらなくていいからただ放っておいてほしい」という感じが伝わってきて胸が痛かったです。

 

つらい現実は自力で受け入れるしかない

タイタンを追い詰めたとき、彼女は会話の中で「ママを助けられない」と自分で気づきます。本当は心の底ではわかっていたけれど受け入れられなかった事実を、恐ろしい巨人に立ち向かうことを通して発見したのだと思います。このことは、ほかの誰かに手助けされたりするのではなく、バーバラ自身のやり方で達成することに意味があるのだと思いました。

 

大切な人を失う悲しみは、体験した人でないとわからないものです。

バーバラにとってのタイタンとの決戦直前、モル先生は「巨人はいない。お母さんは病気なんだからきちんと向き合わなければ」と彼女に言います。バーバラが現実から目をそらしていると思っている先生は、彼女のためを思って必死になってそう言っています。でも実際は、半分正解で、半分不正解です。バーバラは「違う!」とモル先生を突き飛ばし、巨人のもとへ向かいます。この時点で「巨人はいない」と言われたら、バーバラが反発するのも無理はないと思います。

 

映画は終わっても人生は続く

最終的には、バーバラはタイタンを倒します。

そして、タイタンから人生に関する助言をもらい、彼女は現実を受け入れる準備を整え、これまで近づけなかった2階の部屋に向かいます。そこにはたくさんのチューブや点滴の管と繋がった母がベッドに寝ていて、バーバラはその横にそっと添い寝します。

何かが繋がった状態でベッドに横たわる母というのは、紛れもない事実をつきつけてくるものなので、近寄りがたい気持ちは痛いほどわかります。観ていて自分の十数年前の記憶がよみがえりました。

 

2人はベッドで会話を交わします。

「ママに会うのが怖かった」と打ち明け、母に抱きしめられるバーバラを見てうれし涙が出ました。うれし涙です。初体験でした。

 

場面は夏休み明けの教室に移ります。そして、うさぎ耳カチューシャをとり、すっきりした面持ちのバーバラがそこにいます。きっと夏休みの間、母と一緒の時間を過ごせたのだと思います。そして少しずつ、心の準備をしていったのだと思います。

教室にモル先生が来て、「間もなく」だと告げられたバーバラは、「怖がることないよ」とモル先生に言います。

 

お葬式が終わり、夜になって2階の自室でベッドに横になるバーバラは、ふと母のいた部屋に移動します。窓の外をのぞくと、海の中にタイタンの姿があります。

ここでバーバラは、「大丈夫。思っているより強いんだよ」とタイタンに声を掛けます。タイタンは何も言わず、地平線のほうへ向かって去っていきます。

そして、バーバラは母のベッドで眠りにつき、映画が終わります。

 

終わりに

この作品は「巨人を倒す話」だと思って見始めたんですが、ふたを開けてみれば「少女が母親の死を受け入れるまでの過程の物語」でした。

こういうテーマの作品は意図的に避けてきていました。でも、なぜかわかりませんが、これはすんなり心に入ってくるいい作品だったと思えました。

ちょっと個人的に感情移入しすぎてしまいましたが、最後まで読んでくださったのならうれしいです。ありがとうございます。