洋画感想連想記

息をするように洋画を鑑賞して10数年です。海外ドラマも好きです。

菅政権風刺映画『パンケーキを毒見する』を観てきました

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『パンケーキを毒見する』ポスター

 

「ふわふわに膨らんで美味しそうなのに、中身はスカスカ。まるでパンケーキのような菅政権」

 

うまいこと言ってますよね。

この映画は公式HPによると「政治ドキュメンタリー」というジャンルらしいのですが、

いまこの国がいかにやばい状況に陥っているのか知ってるか?

これ以上みんなが他人事として政治に向き合わずにいたらガチのマジでまずいんだよ!?

というメッセージを強く感じました。

 

私は日本の若者の典型を行くというか、政治に興味関心のない人生を歩んできてしまったので、恥ずかしながらこの映画の内容に関して意見を述べるのは難しい…というわけで、ここでは映画本編にたびたび挿入されていた「風刺アニメーション」部分に焦点を絞って感想を述べたいと思います。

 

ただ、国会の答弁の様子をノーカットで見せてくれたパートは面白かったです。

面白かったですけど、賢いはずのおじさんたちがあんなに無意味な時間を過ごすだけで高い給料をもらえているのが現実だなんて、地獄だなと思いました。

 

 

これ以降の内容には、以下の映画に関するネタバレを含みます。

  • 『パンケーキを毒見する』

 

 

風刺アニメ、おもしろくない

まず初めに書きますが、この映画の風刺アニメはまったくもって面白くありませんでした。

よくもまあこれを堂々と「ブラックユーモア」って宣伝したなと言いたくなるような出来で、なんていうか、既視感のある風刺もしくは意外性のない風刺といった具合でした。

個人的に不思議だったのは、一緒に見ていたほかの観客はそのほとんどが60~70代以上くらいの方々だったので、こんな風刺表現なら「どっかで見たことある率」が私より3倍くらい高そうなのに、彼らはなぜかそのすべてに笑っていたことでした。ウケている…とひとり引いていた私は、もしかしたらこの映画に向いていない観客だったのだろうか。いや、この映画はどっちかっていうと若い人に見てほしい類のものなのでは…とすると制作側のセンスって…と、いらんことばかり考えてしまいました。

 

風刺アニメ①「”先進的”の象徴・白人に批判される菅総理

浜辺で重たい何かを必死に引きずる菅総理。何を引きずっているのかと言えば”GoTo”と”オリンピック”を表した石。そこへ通りかかったコロナワクチンを積むでかい船から、男性の白人さんが声をかける。「自助!」

 

これに関しては既視感とかもはやそんなことは関係なく、「うん」といった感じ。「コロナで大変なのに余計なことして」ということですよね。

そうなんだと思いますが、私はちょっと別ベクトルで気になったことがありました。ここからは連想です。

日本人というのはいろいろあって「自虐」が好きなんだなとつくづく思います。それはときに「謙遜」であり「礼儀」でもある、と私は感じています。もはやカタルシスを感じてすらいるのではないでしょうか。そしてこれと割と地続きになっている意識として、「白人はかっこいい」もっと言えば「アメリカの白人かっこいい」があると思っています。なんとなく白人が言うことややることは先進的ですごい。なんておしゃれなの。それに比べて我ら日本人はかっこわるい。そんなノリです。事実、今でもテレビコマーシャルとかで、なにか”先進的”であることを表現したいときって、スマートな白人さんたちに「これが普通ですけど?」みたいなセリフを吐かせたりしていますし、まだまだ色濃くある価値観な気がします。今回の風刺で船に乗っているのが黒人でもアジア系でもラテン系でもなく明確に白人なのは、「わかりやすさ」のほかに、この意識が日本人にあるからな気がしてなりません。

 

風刺アニメ②「地獄」

地獄で人間の舌を抜く係(?)のやつらが、エンマ大王さまに「こいつら舌を抜いてもまた生えてくるんです…」「霞が関からくるやつはみんなそうだ」と訴える。舌を抜かれて血だらけの官僚たちがずらりと並ぶが、皆また次の舌が生えてくる。「とくにこいつはやばい」と言われた人間をエンマ大王が見に行くと、そこには安倍前総理らしき人物がいる。「もう何百枚*も抜いたけど永遠に舌が生えてくる」という。これにはさすがのエンマ大王さまも舌を巻く。

(*…正確な枚数が何と表現されていたか失念しました)

 

凄まじいですけど、ここで言いたいのは「二枚舌」ということですね。政治家は嘘つきばかりですと。

日本的な表現でわかりやすいです。たぶん小学生にでも伝わる風刺です。みんな小さいころから言い聞かせられるやつですから。いいですし、私も他にいい案がパッと出てこないですし、偉そうなことは言えないですが、風刺としての新鮮さはゼロです。

 

風刺アニメ③「デジタル蝶こども蝶」

父とその息子が虫取りに公園へ来てみると、最近発見された”デジタル蝶”が飛んでいる。ベンチでサラリーマンが叩いているラップトップにとまると、何やら個人情報を花の蜜のごとくチューチュー吸っている。そして飛び立つと、さっき吸った個人情報を排出。「あーあー」とあきれる父。今度はその向こうに”こども蝶”という新種の蝶が。それを嬉しそうに追っているのはおじさんたちで、「あの人たちだけ喜んでいるね」とぼやく父。

 

デジタル庁に対する懸念と、こども庁の謎さについての風刺。こども庁に関しては「トップはなんと80代」という揶揄も本編にはありました。

これはほかに比べると面白みがあったように思いました。たしかに日本が頑張っても情報漏洩とかしそうだし。それに頭の薄い政治家っぽいおじさんが蝶と遊んでいる画はヘンでした。

 

風刺アニメ④「こどもから問われると…」

小学生と思われる男の子が花瓶か何かを割ったようで先生に叱られている。詰め寄る先生に対して男の子はいかにも政治家が言いそうな言い訳をして責任逃れをする。先生が「悪いことをしたんだから反省しろ」的なことを言うも、「テレビで政治家がこんなふうに言っているのをテレビで見る。政治家って賢くて偉い大人なんでしょ?それに政治家を選んでるのは先生たちみたいな大人なんでしょ?」と真っ当なことを言う。これに対して、先生は何も言えなくなってしまう。

 

伝家の宝刀「こどもに言わせる」という手法の風刺です。酔っ払いの駅員への暴力禁止ポスターやら、交通安全ポスターやらでよく見る「こどもたちは当たり前にできることを何故大人のあなたができないんですか?」系のやつです。これを見ると、こどものころ、地球温暖化などの環境問題について注意喚起する際の「こどもたちが将来暮らす地球を守るためだ」という主張を初めて聞いたときになんだかモヤモヤした、という経験を思い出します。

あとどうでもいいんですが、アニメに出てくる先生は瘦せ型の”ザマス系”の女性で、キーキーうるさかったんですよね。なんでそんな古いテンプレにのっけたんでしょうか。

つまるところ、もはや手垢まみれの手法なので面白味はありませんでした。

 

風刺アニメ⑤「おとなしい羊」

羊飼いの男は、羊たちに「今年の冬は厳しい、私も精一杯頑張るから君らも頑張ってくれ」と声をかける。羊たちは何も言わない。男は雇い人の2人の男とともに、暖かい部屋で豪華な食事やワインを楽しむ。その間ずっと、羊たちは寒さに耐えている。そのうち、バタリ、バタリと羊が倒れていく。それでも男は「私もつらい、努力はしている。君たちもつらいだろうが頑張ってくれ」と言うだけで、相変わらず何もせず、自分たちだけいい思いをし続ける。羊たちは何も言わない。そんな羊たちが次々に死んで数が減ってくると雇い人たちは焦りだすが、男は「黙って従え。さもなくばお前らもこいつらのようになるぞ」と脅す。どんなにひどい目にあっても、何も考えず反発もしない羊たちは、男にとっては大変都合がいいのだ。

 

一番最後のこれはものすごく怖いことを言っています。既視感満載ではあるけれど。

要するに、「政府の人間にとって、国民が政治に関心がないことほど都合のいいことはない」ということですよね。実際、そういう発言をした人もいたような気がする。

政治がいまのような政治になったのは、政治家だけの責任ではなく、その政治家を選び、関心を失っている我々国民のほうにも責任があるということ。批判というものも健全に行われなくなってきているようだし(本編より)、確かにこの国は大丈夫なんだろうかという危機感はつのりました。

 

最後に

アニメーションがつまらない、という話を延々としてしまいました。

あと、実写でも時折、ギャグなんだかマジなんだかわからない演出があって戸惑いました。例えば、菅さんという人が”ばくち打ち”だと言いたいパートのときには丁半賭博の演出が入って、和室で着物を着たいかにもな女性(ごく妻っぽい)がツボを持っていろいろセリフを言っていました。そういう小ネタみたいなものがたくさん挿入されていて、観客たちは声を出して笑っていました。だからたぶん、ギャグだったんだと思います。

 

この映画を観て政治に興味を持つきっかけができました。

でも最後にちょっと生意気なことを言わせてほしい。

「国民にも責任があるっていうけど、確かにそう思うけど、ずっと笑いながら映画観てたあなたたちの世代と、私たちの世代を一緒くたにされたくはない。」